ザ・シェパード 孤独な戦闘機パイロット

本の話

 1975年7月に、アメリカの男性向け雑誌「プレイボーイ」の日本語版が発売になった。この雑誌は綺麗なお姉さんの裸の写真をたくさん掲載しているのを売りにしていたのだが、記事の内容は政治、経済、文化、趣味、旅行記そして短編小説と読み応えのある中身の充実したものだった。

 その中で、創刊7号に掲載された「ザ・シェパード」と言う短編を紹介したいと思う。作者はフランスのドゴール大統領暗殺未遂事件を描いた「ジャッカルの日」の作者フレデリック・フォーサイスだ。 彼は一時英国空軍でパイロットとして、デハビランド・バンパイアと言う初期のジェット戦闘機に乗っていた。彼のペン先から生まれる文章は、読者がまるで操縦席にいるような感覚にさせてくれる。

 クリスマスの夜、西ドイツの英国空軍基地から、小さなジェット戦闘機が本国へ向け出発して行く。「チャーリー・デルタ、離陸してよし」管制塔の離陸許可を得て「私は右手で、乗機バンパイア、ジェット戦闘機を滑走路の中心線上に保持しながら、左手でゆっくりとスロットル・レバーを前に倒した。背後でうごめいていたゴブリン型エンジンが声を強め、それは急激に鳴き声から悲鳴へと高まっていった。加速するにつれて、両側に並ぶライトがその間隔を詰め、ついには一条の光となって後方に流れ始めた」  こうして若い戦闘機パイロットの乗るバンパイアは真冬の北海上空をイギリスへ向かった。

イギリスで2番目となったジェット戦闘機 バンパイア

 北海上空37000フィートを順調に飛行する戦闘機の暖かいコックピットで、彼は故郷で家族と迎えるクリスマスの事を考えていた。

 そんな彼をトラブルが襲う。ヘッドホンを通じて流れていた低い連続音が止み、コンパスの針が時計の様にくるくると回転した。援助を要請しようと、基地との連絡を試みるが全く反応が無い。電気系統の故障でコンパスと無線機が死んでしまったのだ。通常であれば間もなくレーダー係が彼を誘導してくれるはずだった。

上空で無線機が故障して、送受信が出来なくなったときに生還する最後の手段として、120度の左旋回を3回行って地上のレーダースクリーンに三角形を描く。そうすると無線機の故障を察知した最寄りの基地から救援機、空軍用語でザ・シェパード(牧羊犬)が発進して、翼端がふれあわんばかりに寄り添ってこちらを誘導してくれるはずだった。

 残りの燃料は30分を切っている。「わたしは、今夜死ぬのだと悟っていた。数分後には機体を旋回させ、北海めがけて突っ込んでいく瀕死の愛機から飛び出さなければならない。そして1時間後には、こちこちに凍りついた死体となって、明るい黄色のライフジャケットに包まれたまま、波間にただよっていることだろう」 

 「私は、二つ目の三角形の最後の一辺を描くために、バンパイアの左翼を月に向かって沈めた。   そのとき、翼端の下あたりを、月光に映える白い霧の海を背景にして、黒い影がひとつ、すばやくよぎった。それは、わたしより一マイルほど下の霧海上を、旋回するわたしに合わせて飛んでいる飛行機の姿だった」

救援に現れたシェパード デ・ハビランド モスキート

 飛行機の操縦を経験した者でしか書けない筆致でスリリングでロマンチックな物語は進んでゆく。    尻切れトンボのような文章で申し訳ないが、これはメルヘンチックな物語で、若い戦闘機パイロットは無事、地上に帰還することになる。

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