小松空港のGCA

飛行機のはなし

 石川県の小松空港、古都金沢の最寄りの空港で、航空自衛隊の基地でもある。2015年に北陸新幹線、長野―金沢が開通するまでは、東京から金沢へのJRでの移動は乗り換えなど不便で、航空機での移動に人気があった。

羽田からは距離は短いので燃料はあまり食わない割に、料金は高く設定できるし需要は多かったので、航空会社にとってはかなりおいしいドル箱路線の一つで,B747ジャンボも就航していた。      また経路上に富士山、南アルプス、中央アルプス、北アルプスの山々が間近に見えて天気の良い日には素晴らしい景観を楽しむことができる観光ルートだ。

 それでは私が、エアバスA320に乗務していた頃のエピソードを一つ。               ある日、羽田から小松への便で、操縦室で出発の準備をしていると、カンパニー(会社無線)で「自衛隊の方一名ジャンプシート(操縦室内の予備シート)お願いします」と連絡がきた。当時は1999年の全日空61便のハイジャック事件の前で、ジャンプシート使用の基準は随分と緩いものだった。しばらくすると乗客と一緒に、人の良さそうなおじさんがCAに案内されてきた。小松の管制隊の偉い人で東京での用件が終わり帰るところだった。軽い挨拶の後、私たちは出発のための作業を続け通常通り,離陸、上昇、巡航に移った。

 初めてジャンプシートに乗る人は、我々の操作が珍しくて飛行機が離陸するまではじっと見ているのだが、上昇に移ると変化が無いので退屈してしまうものだ。しかしこの隊長さんはプロなので、管制との交信やナビゲーションなど静かにモニターしていた。

 短い巡航時間の間にいろいろと世間話をしていたが、目的地空港が近づいてきたので、小松空港の気象状況を確認したところ、風は弱く、低い雲がべったりと広がっていて計器進入方式のILSRW06が実施中とのことだった。副操縦士にILS06のデータをMCDU(コンピューターに経路や高度、速度を打ち込む装置)にセットするよう指示したところ、ジャンプシートの隊長さんが遠慮がちに「キャプテン、よろしければGCAやってもらえませんか」と、依頼された。

 GCAとはレーダーの画像を見ながらコントローラーが着陸寸前まで飛行機を誘導する方式で、大掛かりな地上設備がいらない反面、コントローラーの高い技量が要求される進入方式だ。主に軍用空港で実施されているもので、他には千歳や那覇など自衛隊機の多い空港で実施されているが、小松は特に”上手い”と定評のある空港だった。  気象状態も問題ないので、進入方式をGCA RW06に変更した。

GCA(PAR)アプローチの概略

 東京コントロールから小松のレーダーへ管制移管されると、空港の北西の日本海をレーダーで誘導されながら高度を下げていく。滑走路の手前12nm(約22km)付近で2000ft(600m)で水平飛行に移り、脚を下げてフラップを着陸の角度にセット、速度を進入速度に合わせる。その頃レーダーからファイナルコントローラー(最終進入を指示する管制官)と交信するように指示される。

 以下はファイナルコントローラー(C)とパイロット(P)の交信内容の一例だ。

C  「NH753、This is Final Control, How Do You Read Me?」                           「全日空753便、こちらはファイナルコントロールです。感度はいかがですか?」          P  「Reading You 5,How DO you Read Me?」                      「感度良好です。こちらは如何ですか?」                           C  「Read You 5,Do Not Acknowledge For Further Transmission」               「そちらの感度も良好です。この先の交信には答えないでください」                      C 「You Are 7miles From Touch Down, Gear Should Be Down」                「貴機は接地点から7マイルです。脚が降りているのを確認してください」                          Glide Pathに会合した所で                                     C 「Begin Descent」                                    『降下開始してください」

A320の飛行制御装置

 右端の降下率をセットするのぶを引いて1分間に700フィート(210m)のレートで降下を開始しする。その時の飛行機の速度の半分が目安になる。速度は重量や風の強さによって決まりがA320では135ノット(250km)くらいになる。左端のノブでSPD135とセットする。機首方位はコントローラーが指示する方位に、左から2つ目のノブでセット、高度は滑走路が見えず、進入をやり直した時に上昇する高度に右から2つ目のALTノブでセットしておく。

C 「Slightly Above Glide Path Adjust Rate Of Descent、Oncourse Clear To Land」                  「少し高めです,降下率を調整してください。コースは良好です。着陸に支障はありません」       少し高めと言う事で、修正のため降下率を800フィートにセットする。コントローラーの指示に従って微調整を続けているうちに、垂れ込めた雲を抜け、目の前に滑走路が見えてきた。 コース、高さ共にどんぴしゃり、素晴らしい誘導だった。ジャンプシートの隊長が嬉しそうに大きく頷いていた。

C 「Now Guidance Limit Take Over visually After Landing Contact Ground」        「誘導限界点です。目視で着陸して下さい。着陸後はグランドと交信してください」           P 「Roger 、Thank You For Your Nice Control」                         「了解しました。素晴らしいコントロールでした。ありがとう」

 コントローラーは隊長がジャンプシートに乗っているのを知っている。ランプインした後 「さすが、小松のGCAは素晴らしいですね」とヨイショすると「いやいや、それほどでも」と謙遜しながら、隊長は満足げに降機していった。楽しい思い出のフライトであった。

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