パイロットによって揺れ方が違う

飛行機のはなし

 1966年3月5日BOAC(英国海外航空)911便は、羽田空港からホンコンへ向けて、13時58分に離陸した。滑走路脇には、前の日に濃霧の中、着陸に失敗したカナダ太平洋航空402便ダグラスDC8の残骸が散乱していた。

事故を起こしたBOACのボーイング07型機

 羽田空港を離陸し巡航高度へ上昇中の14時15分頃、静岡県御殿場市の上空15,000フィートを飛行中に乱気流に遭遇し、右側の主翼が折れ、空中分解して両方の翼から燃料を放出しながら墜落し乗員、乗客124名全員が犠牲となった。

燃料を放出しながら墜落するBOAC機

 当該便の機長は、通常であれば離陸後、伊豆大島を経由して洋上を飛行するところ、この日は乗客に富士山を良く見せるために計器飛行方式をキャンセルして、有視界飛行方式で富士山の北側に向かった。そして4,500m付近を上昇中に、富士山の風下側に発生する強烈な山岳波に遭遇し、機体が耐えられる限界の3倍の乱気流に巻き込まれ、一瞬で空中分解した。

 フレンドシップF27に乗っていた先輩の機長に、この日は伊豆半島の上空でも、経験した事のない程の強い乱気流に遭遇したという話を聞いたことがある。当時は強い風の吹く時、高い山の風下側に強烈な乱気流が発生することに対する正確な知識が、パイロットにも、管制官にも、気象庁の予報官にも無かった。

 このような話を聞くと、飛行機に乗るのが怖くなる人がいるかもしれない。しかし現在では気象観測の技術は飛躍的に発達している。各種観測機器、気象衛星、航空機からダウンロードされるデータ、それらを解析するスーパーコンピューターを用いてベテランの予報官が一日4回悪天予想図を提供してくれている。これによってパイロットは飛行経路の気象状態をほぼ正確に把握する事が出来るのだ。   下の図は、気象庁が国内線のパイロット向けに「ここはちょっと危ないから気をつけてね」と注意をうながす悪天予想図である。

                             国内向け悪天予想図

 上の図で、赤い点線で囲まれているところは、ジェット気流による揺れが予想される空域で、発生する可能性のある高度も示されている。また黒い線で囲まれているところは、雲が発生していてその中に雷に注意するところ、また翼に氷が着きやすい所などが書かれている。この日は、熊本空港を離発着する航空機に向けては阿蘇山の噴煙にも注意するよう示されている。この図を参考にして自分の飛ぶところの大気の状態を、あらかじめ理解して飛行すれば激しい揺れには遭遇する危険性は大幅に減少する。私は現役の頃、このチャートを常にコピーして飛んでいた。

 ドライバーの中には、運転の荒い人、スピードを出す人といろいろな人がいるが、エアラインのパイロットの中にも、操縦の荒いパイロットがいる。揺れに対する感覚が違うのだ。そんな所を、そんなスピードで飛んだらあかんやろ、という飛行機をたまに見ることがあった。乗客の皆さんは怖いだろうなぁと思っていたものだ

 時折、突然の揺れでCAや乗客がけがをしたという事例を耳にするが、やっぱりな、よく注意していれば防げたのにと思うことがある。

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