機長に昇格する前の5年間、ボーイング767に乗務していた。丈夫で性能も良いのだが、何故かインパクトが弱くあまり記憶に残らない平凡な機体だった。B767はコックピットに始めてパソコンのようなディスプレイが採用された。機体の姿勢や、機のポジションそしてエンジンの状態を表す部分にディスプレイが使われていた。しかし速度や高度示す計器は従来型のアナログ計器が用いられていた。
パイロットは、新しい装置には不安を抱くものだ。「こんなディスプレイ、いつ壊れるか解らない、壊れたらバックアップが無い」などと、散々文句を言って反対したものだ。しかし慣れてくると明るくて見やすい、計器盤がスッキリしている、特に自分の位置がカーナビのようで解りやすく飛行計画が立てやすい、などと掌を返したように「いいね」を連発した。
またB767は、バイパス比の大きなファンエンジンを搭載していて、進入着陸の際のパワーコントロールがB727やB737と大きく異なっていて、最初の頃はスピードのコントロールに随分と苦労をしたものだ。また主脚の車輪が前下がりになっていて違和感があった。前の車輪がうまく接地しても、後ろの車輪が設置する時にガシャンと来るような気がした。

いろいろな飛行機に乗務して操縦席に座っているとその機種特有の音や匂いそして振動や、目に入るシーンに慣れてくる。少しでも異常があると敏感に感じるものだ。ある日、出発前の準備作業中に少し焦げ臭い匂いがした。どこかが過熱している兆候です。しばらくするとペデスタル(左席と右席の間にある操作盤)にあるディスプレイがグレイに表示され不安定になり、メインのディスプレーも色が消えた。整備士に連絡するとこれはシステムを冷却するフィルターにほこりが詰まって過熱した事が判明した。パイロットは常に五感を研ぎ澄まして、異常を察知しないといけないと先輩には言われていたし、後輩にも言っていた。
さてこの匂いについてだが、解剖学者の坂井建雄氏の著書「想定外の人体解剖学」の中に興味深い記事があったので紹介したいと思う。

「鼻の孔は二つありますが、そもそもなぜ二つあるかわかりますか?それは効率よく呼吸するためです。実は鼻腔の上にある嗅覚器と言われるセンサーは、左右交互に働いています。からだをそれほど動かしていないときは、片方の鼻甲介(鼻の奥にある粘膜で覆われたヒダ)を膨らませて、空気の通り道を塞ぐことで片方を休ませているのです。なぜ休ませる必要があるかと言うと、嗅覚は危険から身を守るための大事な感覚であるにもかかわらず、とてもデリケートだからです。たとえば、消費期限が近い食べ物は、まず匂いを嗅ぎます。そこで嫌なニオイがしたときは、食べないようにしますね。ところが、嗅覚は最初のうちはしっかり働いてニオイを感じていますが、ずっと嗅ぎ続けると感覚が鈍くなり、何も感じなくなるのです。危険なガスのニオイさえ、わからなくなってしまうほどです」
私は就寝中、夜中に鼻が詰まったり、空気が素晴らしく通るように感じることがある。これはこの機能が働いているのだろうと思う。人間の体って本当に良く出来ていると改めて感心する。
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