ニューヨーク便 第3エンジン油圧 低下

飛行機のはなし

 技術の進歩で最近のジェットエンジンが飛行中に故障することはほとんど無くなった。時折ニュースでエンジンが火を噴いて緊急着陸する映像が流れることがあるが、民間航空のパイロットで、飛行中にエンジンを停止させた経験を持つ人はあまりいないようだ。もう25年ほど前になるが、私は一度だけ上空でエンジンを止めたことがある。

 NH10(全日空10便)ボーイング747-400型機は、ほぼ満席の乗客を乗せてニューヨーク(ジョン・エフ・ケネディ―空港)へ向け成田空港を離陸した。太平洋上空を北東へ進路を取って順調に高度を上げていく。30分程で最初の巡航高度33,000フィートに到達した。ジェット機は高い所を飛ぶほど燃料効率は良くなるのだが、長距離国際線では燃料を多く搭載しているため重くて一度に高い所へは上昇できない。燃料を消費して軽くなると、少しずつ高度を上げていくのである。ちなみに、当時成田から米国の東海岸へ向かうジャンボ機は340,000ポンド(約155トン)程の燃料を積んでおり離陸重量は800,000ポンド(360トン)を超えていた。

B747-400 エンジンスタート

 その日は天候に恵まれ揺れることもなく快適な飛行が続いていた。キャビンでは客室乗務員が乗客への食事や飲み物のサービスに忙しくしている頃だ。突然エンジンの状態を示すディスプレイに第3エンジン(右側の内側)の油圧の低下を示す警報が表示された。潤滑油の量もほぼ0を示している。このままではエンジンがすぐに焼き付いてしまう。

 何か異常が発生した場合には、まず機体を安定させて飛行を続けることが重要だ。そして次に必要な操作を緊急のチェックリストに従って実施する。エンジンの油圧低下のチェックリストだ。

エンジン停止時のチェックリスト

 Fuel Control Switchを切ると燃料を遮断してエンジンは停止する。エンジンが一つ停止すると速度が減少して高度を維持することができなくなる。管制機関に連絡して25,000フィート(7,500m)以下の高度への降下を要求する。現在のジェット旅客機はエンジンが一つ止まっても25,000フィート以下ならば安全に飛行出来る性能を有している。そして成田空港へのリターンを決めて管制機関へ誘導をリクエストする。

 ここから先は、私が操縦を担当し、右席の機長操縦士がチェックリストの実施、管制機関との連絡、コンピューターへの入力を行い、ジャンプシートの副操縦士が会社や客室乗務員との連絡に当たり3名で協力して飛行を続けることになる。

 しかしながら、このままでは成田空港へは着陸できない。重すぎるのだ、飛行機には安全に着陸するための最大着陸重量が定められている。747-400の最大着陸重量は670,000ポンド(305トン)で、この重量になるまで燃料を放出しなければならない。管制機関から洋上の他に飛行機のいない所での放出を指示され140,000ポンド(63トン)の燃料を45分かけて放出した。

Fuel Jettison(燃料投棄)

 これから先は,いつもの訓練通り飛行すればいいのだが、最後の仕事が残っている。乗客の皆さんへのアナウンスだ。こういったケースでは機長の冷静で適切なアナウンスが絶対必要となる。外国の乗客もたくさん搭乗しているので英語のアナウンスに苦労したが、Lubrication(潤滑)と言う言葉を覚えていたので何とか落ち着いてアナウンスすることが出来た。

 こうして無事に成田空港に着陸しスポットに入った時、隣のスポットには代替機が用意されパイロットもCAもすでに出発準備を整えて待機していた。この時、立派な会社になったものだと妙に感心したのを覚えている。

  

コメント

タイトルとURLをコピーしました