音速を超えられない

飛行機のはなし

1950年代、アメリカとソ連の冷戦は深刻さをましていった。アメリカは核弾頭を搭載したソ連の長距離爆撃機の脅威に対応するための防空体制の強化に迫られていた。

ソ連の高性能長距離爆撃機 ツポレフTU95  ベア

 4基のガスタービンエンジンで自動反転プロペラを低速度で回転させ35度の後退翼を持つツポレフTU95ベアーは、プロペラ機としては世界最速を誇る時速950㎞で、高度39,000フィート上空を空中給油なしで15,000㎞を飛行することができた。万が一の有事の際には、核弾頭を搭載した爆撃機TU95の編隊がアラスカ州から米本土へ侵攻してくる。米空軍は何としても、TU95ベアーの侵入を防がなければならなかった。

 1950年からアラスカに配備していたF89スコーピオンでは防御することはできず、新しい防空システムの構築が喫緊の課題となった。これは敵機の襲来を感知する戦闘機用の電子管制システムと、このシステムに組み込まれて運用される高性能な戦闘機との組み合わせからなっていた。この重大な任務を遂行するために選ばれたのがコンベア社のF102であった。

ところが、この飛行機、全く性能が悪く期待外れであった。エンジンの出力のわりに機体が重く上昇性能は悪いし、速度は音速を超えることは出来なかった。このままでは大金をかけた計画がキャンセルされる可能性もあった。

 いろいろな対策が講じられたがエリア・ルール(面積法則)と呼ばれる対策がなされたことによってなんとか息をふきかえしたのである。

これは航空機の断面積の変化を滑らかにすることによって、音速付近での抵抗を減らすという空力的な手法であった。ちなみに音速は気温15℃の時340m/sで1224km/h、温度が1度C上がるごとに0.6m/s早くなる。エリア・ルールを採用したことによってF102デルタ・ダガー(三角翼の短剣)は最大速度1304km/hと僅かに音速を超えることができた。

恰好は良いが性能はいまいちだったコンベアF102デルタ・ダガー

余談になるが、その昔わが国がロッキードF104スター・ファイターを導入するとき米国からF102をバーゲンプライスで100機ほど買わないかというオファーがあったそうである。

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