エアバスA320の真実(PART2)

飛行機のはなし

A320が離陸滑走を始めて、機首上げ速度 Vr に達するとパイロットはサイドスティックをゆっくりと引いて機首を上げていく。機首の角度が8度を超えると、グランドモードからフライトモードへの移行がはじまり、5秒後に完全なフライトモードとなり機体は7個のコンピューターによって保護された状態になる。規程(取説)上、機体が100フィート(30m)を超えるとオートパイロットはいつでも使用可能となる。

機体がフライトモードになると、パイロットが操縦するマニュアルであっても、オートパイロットを使用して飛んでいてもA320は常に安全で最高の性能を発揮してに飛行できるように、次に挙げる5種類のプロテクションで保護されることになっている。

(1)Load Factor Limitation   旅客機は飛行中に+2.5G~-1Gに耐えられるように設計されている 。この制限を超えれば機体の安全は保障されない。A320は、パイロットがどのような激しい操作をしてもこの制限を超えることはない。

(2)Pitch Attitude Protection   A320は、どんなにサイドスティックを引いても機首が30度を超えることはない。また、どんなにサイドスティックを押しても機首は-25度以下にはならない。 機体が着陸状態にある時は +25度から-20度に制限される。

(3)Bank Angle Protection  33度を超えるBank(傾き)では、サイドスティックをニュートラルにすると33度に戻る。45度を超えるとオートパイロットは外れフライトディレクターも消える。サイドスティックをFullにとっても、Bankが67度を超えることはない。

(4)High Speed Protection    A320のMAX SPDは350kt/ 0.82Machだが、この速度を4kt/0.01mach上回るとOver Speedの警告が出る。+6kt/0.01machでオートパイロットが外れる。サイドスティックを急激に操作した場合Vmo+30kt/Mmo+0.07まで加速するが、サイドスティックを放すとVmo/Mmoに戻る。Bankを取っていた場合は0度に戻る。

(5)High Angle Of Attack Protection  A320に失速(Stall)は無い。衝突回避や着陸失敗で急上昇が必要な場合、A320ではサイドスティックを思い切り引き続けると機種は上がり、速度は減少する。失速の速度に近ずくと自動的にMAXパワーになり、失速直前のスピードで上昇を続ける。A320は持てるMAXの性能を駆使して危機を離脱する。この機能をアルファ・フロアと呼ぶ。  機体が危機を脱したことを確認してアルファ・フロアーを解除する。

アルファ・フロア発生時のの計器指示

ボーイングの設計思想は、どのような状態であってもパイロットが機体をコントロールするというものだ。急上昇が必要になった場合、スラストレバーをMAXにして操縦桿を引くと速度は減少する。そのまま引き続けると操縦桿が振動し失速速度に近づいたことを知らせる。なおも引き続ける飛行機は失速してコントロールを失う。一方、エアバスの設計思想は、パイロットが関与できる範囲があらかじめ決められていて、それを超える領域に入らないようにコンピューターが飛行の安全を管理することになっている。このことで、エアバスの設計思想に反発するパイロットもいるが、民間航空で、A320のプロテクション機能に抵触するようなフライトや、実際に失速を経験したパイロットは(事故以外)ほとんどいないと思う。シミュレーターの訓練ですら完全なストールには入れない。

 どちらの設計思想が良いかは一概に言えないが、ボーイングとエアバスの違いを知っておくのは悪い事ではない。A320のプロテクションが働くような極限の状況に追い込まれないように訓練や 勉強するのも民間航空のパイロットの大切な仕事でである。

この文章は初期の訓練生向けのため、とても難解で一般向けではありません。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました