統計上から航空機は安全な輸送手段だといわれている。しかし、一旦事故が発生するとそれは、センセーショナルな大事件となる。一般に航空事故が発生する要因としては
1 機材の故障 2 悪天候 3 パイロトの判断や操作のミス と言った三つの要素が挙げられる。トラブルが単独で発生した場合、重大なインシデント(深刻な状態)に繋がるケースは少ないものだが、二つの要素が絡んでくるとかなり厳しい状態に追い込まれて来る。そして三つの要素が重なった場合は、ほぼ最悪の事態へと進んでいく事となる。それではこの三つの要素が絡んで、悲惨な結果を招いた事例を紹介しょう。
2009年6月1日ブラジルのリオデジャネイロから、パリに向かっていたエールフランスの447便エアバスA330型機は大西洋上空35000フィート(10500m)を飛行していた。機長は休憩のためレストルームに入っていて、操縦は右席の副操縦士が担当していた。左席には交代操縦士が着席していたが、彼も副操縦士資格のパイロットだった。日本の航空会社では、飛行中は機長資格を持ったパイロットが必ず一名着席していなければならない。
447便の前方には、強烈な乱気流を含む熱帯収束帯の積乱雲が横たわっていた。積乱雲の中には、エンジンや機体に着氷する過冷却水滴(0度近くの水滴で何かあればすぐに氷になります)や、雹(ひょう)などが多く含まれている。機体は大きく揺れ始めた。この時、強烈にヒーティングされているピトー管(飛行機の速度を測る装置)が何らかの原因で凍結し、操縦室の速度計は異常な値を示した。
このケースでは、ピトー管に入る全圧が減少して指示速度は低下して全く信用できない数値を示した。その結果、オートパイロットとオートスラスト(自動パワー制御装置)は解除され警報が鳴り響く。 夜間飛行、激しいタービュランス、そして異常な速度指示、パイロットにとってはまさに悪夢だ。
この時、右席で操縦を担当していた副操縦士は、何故かサイドスティック(エアバスでは操縦桿の代わりに飛行機の姿勢をコントロールする)を引き続け機首を上げ機体を上昇させてしまった。その結果、実際の速度はどんどんと低下し、ついには失速して急激に高度を失ってしまった。休憩に入っていた機長が、操縦室に戻ったところ、すぐには何が起こっているのか判らなかった。ようやく状況が掴めたときには、回復操作をするには遅すぎて機体は海面にたたきつけられ、乗員乗客228名は全員死亡した。
この事故を防ぐことはできたのだろうか? エアバス社の航空機を使用する航空会社には、QRH(Quick Reference Handbook)と呼ぶ緊急事態用のマニュアルがある。この中に、特に緊急度が高く、致命的なインシデントに繋がるケースを想定した9個の MEMORY ITEMS が銘記されている。これらの項目はエアバス機のパイロットとして乗務する時には、理解し、覚えておいて、必ず実行できなければならないものである。
上から三つ目の項目は、「速度計の指示が信頼できなくなったとき、直ちに実行しなければならない操作」で、以下の内容になっている。プロのパイロットにとっては別段難しい操作ではない。
オートパイロットを切る オートスラスト(自動的にエンジンの出力をコントロールする)を切る フライトディレクター(飛行機の姿勢を指示する)を切る 水平飛行をして、落ち着いて対処しろと言うものである。
速度計の異常が発生した時に、操縦を担当していた副操縦士が 「Open QRH Unreliable Speed Indication] 「QRH を開いて速度計が信頼できないところを読んでくれ」とチェックリストの実施を要求していれば、この悲惨な事故は防げた可能性が高かったのではないかと思う。
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