離陸中のエンジン故障 (1)

飛行機のはなし

 エンジンを二つ以上装備した旅客機が、離陸滑走を開始した後にエンジンが一つ故障した場合に、 パイロットはどのような操作をするのでしょうか?航空に興味のあるか方はご存じと思いますが、離陸を取り止めるかそのまま離陸を継続するかを判断する V1(決心速度)という速度が決められています。この速度は、飛行機の重量、離陸のパワー、フラップのセッティング、滑走路の長さ、気温、風向風速などの要素によって毎回変わってきます。

V1までに、エンジンが故障した場合に離陸を取り止めると(RTO- Reject Take Off)滑走路内に停止する事ができます。V1を超える速度から、RTOを行うと飛行機は滑走路を飛び出してしまいます。V1の速度でエンジンが故障した場合に、そのまま離陸を継続した場合、飛行機は最悪でも滑走路末端を35フィート(約11メートル)の高度で、失速速度の1.13倍以上の速度(エアバスA320の場合)で飛行できる性能を保有しなければならないとされています。       

V1を超えた速度でエンジンが故障したが、離陸を継続して事故が発生したとして知られているのが、 ガルーダインドネシア航空のケースです。

1996年6月13日、福岡空港からインドネシアのジャカルタに向かう予定だったガルーダ・インドネシア航空865便(DC10-30)は、RWY16を離陸滑走中に右翼の第三エンジンが故障しました。機長は離陸中止を決断、実行したが、機体はすでにV1を超えており僅かに上昇していました。滑走路内に停止できずオーバーランして滑走路端の緑地帯に擱座、この衝撃で右翼のランディング・ギアが燃料タンクを貫通し火災が発生しました。この事故では、乗員乗客275名の内、乗客3名が死亡、多数が重軽傷を負いました。

私も現役の頃に何度かRTOを体験していますが、その中で特に記憶に残っているのは、エアバスA320に乗務している時に、新潟から伊丹に向かう定期便で発生したものです。天候も問題なく、この便は右席の副操縦士に操縦を任せていました。管制塔から離陸の許可を得て、RWY28で順調に加速していきました。V1は130ノット(240km)くらいです。100ノット(180km)付近で、目の前を左から右側へ大きな鳥が横切るのが見えました。次の瞬間ドカーンと大きな音と、エンジンからの異常な振動が発生、同時に、機内に生臭い匂いが充満しました。スラストレバー(自動車のアクセルと同じ)をアイドルに、スピードブレーキ(主翼の上に展開し、ブレーキの効きを良くする)は自動的に開き、強力な自動ブレーキで機体はほとんど瞬時に滑走路上に停止しました。大きなトンビが右側の エンジンに吸い込まれ、硬い骨がファンブレードを破損させ、その欠片がエンジン内部に大きなダメージを与えたことが判明しました。この事故はテレビに撮影されていました。

 偶然の事なのですが、この日から離陸中の操作方法が変更になり、離陸出力にセットした後、V1の速度に達するまではRTO(離陸中止)に備えて副操縦士が操縦している場合でも、機長がスラストレバーを持つ事になったのです。私もこの指示に従っていたので、会社からは何のお咎めも無くホットしたことを覚えています。ところでRTOですが、V1手前で故障するのはエンジンだけとは限りません。操縦系統の故障、油圧のロス、ブレーキの故障、タイヤのパンクなど何が起こるかわかりません。100ノットを超えるハイスピードからのRTOは危険を伴うことから、現在では [Go Mindedness]の概念が用いられ重大なトラブル以外は、離陸を継続することが勧められています。

 離陸中にトラブルが発生した場合、状況を把握し、即座に GO, NO GO を決定して実行するのはかなり難しい事です。パイロットは一般的に、トラブルを抱えたまま飛び上がるのは好まないものです。

 

 

 

     

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