世界の民間航空機の販売状況を見ているとボーイングがエアバスに押されているように見える。今まで好調に販売を伸ばしていたボーイング737だが最新型である737MAX-8が、立て続けに2件の墜落全損事故を起こしてしまった。2018年10月18日にライオン航空610便が離陸から12分後に、2019年3月10日にはエチオピア航空302便が離陸から7分後に墜落し,両機合わせて346名の乗員乗客が死亡した。当時貿易戦争真最中だった中国はこの事故を受けて直ちに737MAXの運行停止を命じ、その後アメリカや日本でも運航停止となった。
事故後ボーイング社はB737MAXには問題はないと言っていたのだが、原因調査が行われた結果737MAXに新しく装備された「MCAS」というシステムが誤った信号を感知して誤作動していたことが判明した。 さて墜落の原因となった「MCAS」とはなんだったのか。このシステムは、過剰な機首上げ姿勢を感知すると、自動的に機首を下げて失速を防止するというものだ。
それではなぜB737MAXは「MCAS」を装備しなければならなかったのか?その一番の要因がB737の主脚が短かったことが挙げられる。ジェットエンジンは初期のターボジェットエンジンから ターボファンエンジンへと進歩してきた。ターボジェットエンジンは、前方から取り入れた空気をすべて燃焼に回してその排気を推進力にしている。燃費性能が悪く騒音も大きいのだが、高速で飛行するのに向いていることから現在では主に軍用機に用いられている。超音速のコンコルドもターボジェットエンジンを搭載していた。一方、ターボファンエンジンは取り入れた空気の一部を燃焼に用いているが、エンジンの一番前にあるファンを回して、推力を得ている。超音速と言った高速には向かないが、音速の80%付近の速度で飛行するには非常に燃料効率の良いエンジンである。
初期のB737に搭載されていたJT8Dエンジンでは、ファンノズルとジェットノズルとの空気量は1対1だったが、B777に搭載されている最新のエンジンでは7対1くらいになっていてファンによる推力がエンジン出力の大半を占めている。このファンノズルとジェットノズルの空気量の比をバイパス比と言い、バイパス比がが大きくなる程、燃料効率は良くなる。そしてバイパス比が大きくなるほどエンジンの直径は大きくなる。B737は設計初期の段階で、整備性の面から直径約1.2メートルのJT8-Dを主翼に直接取り付ける設計で,主脚は短くなっていた。当時は、現在の様に直径の大きな高バイパスエンジンを取り付けることは考えていなかったのだろう。
1980年代になると、ヨーロッパのエアバスA320が、B737のライバルとして登場してくる。B737の弱点を徹底的に研究したエアバスは、B737より少し太いキャビン、B737では積めなかった貨物用のコンテナの搭載、A320の以降の機種は操縦室のレイアウトが基本的に統一され、機種移行の訓練が大幅に短縮できる、そしてすらりと伸びた主脚は、燃料効率の良い直径の大きな高バイパスエンジンを無理なく装備できるなどのセールスポイントを満載して、世界中の航空会社からの受注を増やしていった。
これに対してボーイング社もいろいろと対策を講じるが、続きはPART2で・・・
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