最近の若い男性は車への興味を失ってしまったようだと言われている。団塊世代の私が免許を取った1960年代は、日本のモータリゼーションが隆盛期を迎え日産、トヨタを始め各メーカーが魅力的な車を発表していた。写真の車はスズキのフロンテ800でユニークな2ストローク3気筒の水冷エンジンを搭載していた。なんかイタリアかフランスの車のようでお洒落だ。可愛いい彼女と週末の夜どこかで食事をしてドライブに出掛けるのだろうか、自動車雑誌を見ながら、憧れたものです。
アルバイトに明け暮れていた大学生の頃のある日、鉄ちゃんの友人M君とレンタカーを借りてナイトドライブと洒落込んだ事があった。当時、京都の西大路三条にサンコーレンタカーと言うのがあって、料金が7~8千円で小さなスポーツカーを一晩借りることが出来たのである。トヨタスポーツS800だ。
現在の軽自動車とほぼ同じサイズ(全長が18cm長い)の車体に、空冷2気筒45馬力のエンジンを搭載していた。45馬力と聞くと大したことは無いだろうと思われるが、一旦シートに身を沈め、走らせてみると驚くほどのドライビング・プレジャーを与えてくれた。空力特性に優れた軽量なボディは580kgと今では信じられない程の軽さだ。京都に住む古い人なら知っている宝ヶ池の狐坂のヘアピンカーブを綺麗に回りながら、その先の坂をぐんぐんと登っていく。シルバーの長いボンネットに流れる水銀灯の灯りと、パタパタと伝わる空冷エンジンの鼓動は今でもはっきりと覚えている。
このトヨタS800は、トヨタの系列企業である関東自動車工業で製造され1965年に販売が開始された。設計したのはのちにカローラを生み出した長谷川龍雄という方で、戦前は中島飛行機で翼型断面の研究をしていた航空技術者だ。中島飛行機は有名な「隼」や「疾風」と言った戦闘機を製造していた会社だ。飛行機屋さんが自動車を作ると、まず軽く空気抵抗を少なく設計する。次に全体的なバランスを考慮して、無駄に大きなエンジンは積まない。私が現在所有している富士重工のスバル360も同じ匂いがする。
ガソリンエンジンそのものの将来が危ぶまれ、安全基準が厳しくなった現在トヨタS800やスバル360が生き残るのは難しくなっている。もう一度トヨタスポーツ800のハンドルを握ってみたいと思っているが、新車価格595000円だったものが、現在中古車価格は500万円以上している。
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